2013年6月15日(土)14時から、京都市上京区のアンテナカフェ丸太町で、京都学生メディア会議が主催する「~いつ撮るの?今でしょ~」が行われた。大学生を中心に、メディアに関心のある20人弱の一般市民が集まる中、ゲストの堀潤氏は、12年間のNHK勤務で蓄積した知見を披露しつつ、会議をリードし、後半のワークショップではプロの取材術にも言及した。
※6月15日のイベントの模様を、16日(日)19時より録画配信しました。
- 討論第1部「市民メディアの可能性と問題点」
- 討論第2部「大学生だからできる自己発信は? 学生発のメディア創出のためには」
- スベシャルゲスト 堀潤氏(フリージャーナリスト、8bitNews 代表)
- 日時 2013年6月15日(土)14:00~
- 主催 京都学生メディア会議(詳細)
「目下、大学でメディアを専攻しているが、授業に物足りなさを感じることがある」と、一般参加の男性が話すと、堀氏は、その男性に対し矢継ぎ早に質問をぶつけて、物足りなさの理由を具体的に把握していった。そして、「日本の大学で、マスメディア関連の授業を担当する先生の多くは、大手メディアをリタイア人で、今はフリーという立場。彼らは概して、生活費の一部を稼ぐために大学で教えており、授業の中身は、メディア批判と自慢話に傾きがち」と述べ、理論に根ざしたジャーナリズム論を、日本の大学で学ぼうとしても難しいことを、一般参加者たちに向かって伝えた。
堀氏は、NHK時代の、精神論に重きが置かれた社内研修などについて話し、「ジャーナリスト養成教育が確立されていないところに、日本のメディアの限界があるのかもしれない」と表明した。
そして、大勢の日本人が抱えているメディアを巡るジレンマについて、「みなさんも、こういう集まりに参加している以上、日本のメディアに不満があるはず。その一方で『インターネットを使って自分で何かを発信するにしても、どうしたらうまくいくか、わからない』、という空気が、われわれの周りに漂っている」と話した。
参加者からは、「全国紙の読者欄に投稿した経験がある。全国紙は部数が多いから、私の意見に国会議員が反応した」などと、大手メディアの威力を認めるものや、「SNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)やツイッターを活用して、身の回りのことに関する素朴な感想の発表から始めるのがよい」といった意見など、メディアに関するさまざまな声が寄せられた。
これを受けて堀氏は、「個人でも手軽に自分のメッセージが発信できるようになった今、言いたいことをうまく伝えるには、どうしたらいいか」と問題提起し、「ツイッターを使うにしても、フォロワー数が3ケタ程度では、渾身のメッセージを発信しても反応が得られず、無力感に苛まれるだけかも」と発言し、会場に反論を促した。
論者の1人、山川氏は、自身のツイッターのフォロワーが2000人超いることを紹介し、「とにかく伝えたいという気持ちを持つことが大切」と強調した。その一方、会場の女性から「2000人超程度のフォロワー数では無名の範疇だ。また個人の場合、ネットを使って何かのメッセージを発信したとして、それによって炎上が起これば、受ける精神的苦痛は計り知れない。つまり、どうしたって、個人は大手メディアのようにはなれない」という声が上がった。
堀氏は、個人発信者を含む市民メディアと、既存の大手メディアの間に「協業関係」が生まれることが望ましいと力説した。「市民メディアが、自前主義で成功するのは難しいし、反応が鈍ければ、士気も衰えてしまう。市民メディアは、すでに大きなインフラを持っている大手メディアとつながりを持つことが大切だ。私が運営している8bitNewsの場合、市民が投稿した映像を全国紙がニュースソースとして利用する体制づくりが目下の課題である」と語った。
その上で堀氏は「伝わるものと、伝えるものは違う」と強調。自身の経験に照らして、「漠然とした意見は、いくらアピールしても、まず伝わらない。大切なのは、その発信者が取材で探し出してきたファクト(事実)を積み上げて報告することだ」と述べた。
その後、堀氏も参加してインタビューの実習が行われた。インタビュアーには、相手からファクトを引き出すことが命じられ、堀氏は「『なぜ、何を根拠に』という視点が重要」「揺ぎない事実として、最も有効なのは数値」「共通体験があるテーマは、インタビューがしやすい」などと助言した。
最後に堀氏は、次のように語った。「取材された人が、刷り上った記事を読み、自分が伝えたい思いが伝わっていないと思ったら、インタビュアーのスキル不足に原因を求めてもいいかもしれない。市民記者も、相手にインタビューするからには、スキルを身につけ、取材テーマに関する知識を備えて取材に臨んでほしい。インタビューの難しさを知れば、新聞やテレビに対する不満も、より具体的なものへと変わっていくだろう」。【IWJテキストスタッフ・富田/奥松】
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